SFAやCRMを導入したものの、営業担当者の入力作業が増えただけ。生成AIを使い始めたものの、既存の営業プロセスに新しい作業が追加され、仕事の流れ自体はあまり変わっていない。
営業DXを進めるなかで、こうした状態に陥ることがあります。
本記事では営業DXを、単なるツール導入ではなく、データやデジタル技術の活用を前提に、顧客との接点や情報の流れ、営業プロセスなどを見直していく取り組みとして捉えます。
経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」でも、DXは経営ビジョンやビジネスモデル、組織、ITシステムなどを含めて企業価値向上につなげる経営変革として整理されています。(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」 (https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc3.0.pdf))
では、営業DXはどこから始めればよいのでしょうか。
重要なのは、目についた課題にすぐツールを当てはめるのではなく、まず営業業務全体を見渡すことです。そのうえで、デジタルを前提とした営業プロセスを描き、実行する領域に優先順位をつけ、結果を見ながら改善を続けます。
営業DXとは、デジタルを前提に営業の仕組みを見直すこと
営業DXという言葉から、SFAやCRM、オンライン商談、生成AIなどの導入を思い浮かべる人も多いでしょう。
これらは営業DXを進めるための有力な手段ですが、導入そのものがDXではありません。
たとえば、Excelで管理していた案件をCRMへ移しても、営業担当者が同じ情報を何度も入力し、営業会議のために別の資料を作り直しているのであれば、管理場所が変わっただけです。
生成AIで商談議事録を作れるようになっても、その情報が案件管理や提案、受注後の引き継ぎに使われず、各工程で情報を探し直しているなら、商談後の一作業を効率化したにすぎません。
営業DXで考えるべきなのは、「今の仕事をどう速くするか」だけではなく、「データやデジタル技術を使えるなら、そもそも営業の仕事はどのような流れであるべきか」です。
この視点が重要になっている背景には、AIを含むデジタル技術の利用範囲が広がっていることがあります。IPAの「DX動向2026」では、生成AIを含むAIについて、活用の実態・効果・課題、ガバナンスや組織体制などが調査されています。同調査では、AI導入が広がる一方、活用や効果は業務効率化・迅速化を中心としており、価値創出や企業変革への展開には課題が残ることが示されています。(出典:IPA「DX動向2026」)
営業でも同様です。AIで情報収集や文章作成が速くなったとしても、営業プロセスそのものが変わらなければ、局所的な効率化で止まる可能性があります。
これからの営業DXでは、「新しいツールで何ができるか」だけではなく、「新しい技術を前提にすると、営業の仕組みをどう変えられるか」まで考える必要があります。
営業DXの実践事例|ツール導入より先に営業の仕組みを見直す
実際にDXへ取り組む企業を見ると、特定のツールを導入することだけを起点にしていないケースがあります。ここでは、営業の仕組みそのものを見直した実践例として、NECと富士通の取り組みを見てみましょう。
NEC|現在の営業業務を可視化し、目指す姿から逆算する
NECは自社の営業DXについて、ツール導入ありきではなく、まず事業の目標を明確にし、現在の業務を分析・可視化したうえで、目標とのギャップを埋めるアクションを具体化することが重要だと説明しています。
NECでは、営業DXの取り組みにおいて、営業プロセスの可視化・標準化を課題の一つとして捉えています。
その後の営業AIプロジェクトでも、「営業プロセスの可視化・標準化」を大きな課題として捉え、営業現場の有識者に数か月にわたってヒアリングしながら、暗黙知となっていた営業プロセスを言語化しています。(出典:NEC「ツール導入ありきを脱却して真の営業DXを実現するには」 (https://jpn.nec.com/dx/consulting/topics/202401_eigyodx.html)、NEC「営業変革:NECグループ11万人で挑むAXチャレンジ」 (https://jpn.nec.com/dx/internaldx/ax-challenge/sales-ai/index.html))
ここから分かるのは、AIやSFAを先に選ぶのではなく、営業の仕事を理解し、目指す状態との間に何が不足しているかを明らかにしている点です。
富士通|顧客理解や提案の進め方まで見直す
富士通では、全社DXプロジェクト「フジトラ」のなかで、顧客や従業員の声を収集・分析し、判断や行動の変革につなげる「VOICEプログラム」を展開しています。
公開されている実践例では、Business ProducerがVOICEを提案素材として活用し、顧客の課題を捉え直しながら商談へつなげています。(出典:富士通「新たな営業スタイルを考える。社員13万人の生の声を提案素材に」)営業DXを考えるうえでは、このように「どの情報を営業活動に活用するか」という視点も参考になります。
NECと富士通の取り組みは内容こそ異なりますが、共通しているのは、ツール導入を出発点にせず、営業プロセスや営業の役割を見直したうえでデジタルを組み込んでいることです。
営業DXの進め方|まず営業業務全体を可視化する
自社で営業DXを進めるときも、最初に「どのツールを導入するか」を決める必要はありません。まず確認したいのは、現在の営業がどのような流れで動いているかです。
営業プロセスを工程ごとに棚卸しする
BtoB営業であれば、リード獲得からターゲット選定、情報収集、アプローチ、案件化、商談準備、商談、提案、意思決定、契約・受注、受注後の引き継ぎまでを、一つの流れとして見ていきます。
企業によって工程や名称は異なりますが、重要なのは組織図ではなく仕事の流れで捉えることです。
インサイドセールスからフィールドセールスへ案件を渡すときに情報が欠けていないか。商談で分かったことが提案や案件管理へ引き継がれているか。受注時に顧客の要望や契約背景が後工程へ残っているか。
各工程について、「何をしているか」「何の情報を使っているか」「何を判断しているか」を並べると、営業活動の分断が見えやすくなります。
課題を見つけても、すぐにツール導入へ進まない
ここで注意したいのが、最初に見つかった課題へすぐ飛びつかないことです。
「CRMへの入力が大変だから、自動入力ツールを入れよう」「商談準備に時間がかかるから、生成AIを使おう」といった課題設定自体が間違っているとは限りません。しかし、その業務だけを見ると、本当のボトルネックを見落とす場合があります。
入力作業を自動化しても、そのデータが誰の判断にも使われていなければ、不要な情報を効率よく蓄積しているだけかもしれません。商談準備を速くしても、前工程の情報が不足しているため毎回調査が必要なのであれば、本来見直すべきなのは情報の引き継ぎかもしれません。
業務の棚卸しは、現在のやり方をそのまま効率化するために行うのではありません。
現状を理解することと、現状を残すことは別です。
現在の営業プロセスを把握したうえで、「データやデジタル技術を使えるなら、本来どのような流れであるべきか」という目指す姿を描くことが、営業DXの土台になります。
営業DXは全体最適で設計し、実行には優先順位をつける
営業活動の一部だけを改善すると、その工程では効率が上がっても、別の工程に負荷や情報の分断が移ることがあります。
IPAの「DX動向2025」は、日本企業のDXについて「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」への転換を成果創出の方向性として整理しています。(出典:IPA「DX動向2025」 (https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html))
この考え方を営業DXに当てはめると、商談、CRM入力、リード獲得といった個別業務だけで設計を完結させず、前後の営業プロセスとのつながりまで見ることが重要だと考えられます。
たとえば商談議事録をAIで自動生成する場合も、議事録作成そのものをゴールにしません。商談で得られた情報が案件管理へ残り、次回の営業活動や提案、受注後の引き継ぎまで利用できる状態を含めて考えます。
ただし、全体最適で考えることと、すべての工程を同時に変更することは同じではありません。
営業プロセス全体の目指す姿を描いたうえで、事業への影響度、予算や人員を含む実行可能性、他の業務やシステムとの依存関係を見ながら、実施する領域に優先順位をつけることはできます。
大切なのは、最初から一部分だけを最適化するのではなく、全体像を共通の前提にして実行順序を決めることです。
改善に必要なデータが残る仕組みをつくる
営業DXを継続的に改善するためには、その結果を振り返れるデータを残せる状態をつくることも重要です。
どの案件がどの工程で止まったのか。どのような情報を持った状態で商談へ進んだのか。なぜ案件が進んだ、あるいは止まったのか。前工程から後工程へ必要な情報が引き継がれたのか。
こうした事実が残っていなければ、プロセスを変更しても、その変更が良かったのかを検証できません。
だからといって、CRMの入力項目を増やせばよいわけでもありません。「取得できるデータ」から考えるのではなく、「何を判断・改善するために、どの情報が必要か」から逆算します。営業担当者に新たな入力負荷を増やすのではなく、既存の営業活動から必要な情報が自然に残る仕組みを考えることも重要です。
人とツール・AIの役割を営業プロセスに合わせて設計する
営業プロセスを変えれば、人が担う仕事とデジタルが担う仕事の境界も変わります。
情報収集、記録、整理、要約、検索などは、ツールやAIによる支援を検討しやすい領域です。一方、顧客との対話や状況を踏まえた判断、社内外の合意形成、提案内容の決定などについては、AIの出力をそのまま採用するのではなく、人が確認・判断する運用が重要です。
重要なのは、「AIに何をやらせるか」から考えないことです。
目指す営業プロセスを先に描き、そのプロセスに必要な仕事を、人・システム・AIのどこへ配置するのが適切かを考えます。
AIを活用する場合も、すべての判断をAIへ委ねるのではなく、情報収集や整理、営業準備などを支援する手段として組み込み、必要に応じて人が確認・判断できるプロセスを設計することが重要です。
営業AIが具体的にどの業務で使えるのかについては、別記事で詳しく整理します。
営業DXは導入して終わりではなく、継続的に改善する
新しい営業プロセスやツールを導入したあとも、それで営業DXが完了するわけではありません。
NECも、自社の営業DXについて、事業環境の変化に対応するために仮説と検証を継続し、プロセスやツールを変化させ続ける必要があると説明しています。(出典:NEC「ツール導入ありきを脱却して真の営業DXを実現するには」 (https://jpn.nec.com/dx/consulting/topics/202401_eigyodx.html))
営業DXの成果を見るときに、SFAのログイン率や入力率だけを追うと、「ツールが使われたか」で評価が終わってしまいます。
まず確認したいのは、営業の仕事が実際に変わったかです。
情報を探す時間や二重入力が減ったのか。必要な情報が前後の工程で引き継がれるようになったのか。商談や提案の準備に使える判断材料が増えたのか。
そのうえで、変更した工程に応じて案件化率、商談化率、営業サイクル、受注率などへの影響を確認します。すべての施策について受注率だけを見る必要はありません。変えた業務に近い変化と、その先の営業成果を分けて見ることが重要です。
期待した変化が出なければ、ツールの設定だけではなく、業務プロセスそのもの、取得するデータ、人とツールの役割分担まで戻って見直します。
営業DXは、一度完成させるものではありません。営業活動からデータが残り、そのデータをもとにプロセスを振り返り、必要に応じて設計を変える。この循環を続けられる状態をつくることが、DXを一時的な施策で終わらせないために必要です。
まとめ|営業DXはツール選定ではなく営業全体の棚卸しから始める
営業DXで最初に考えるべきなのは、「どのSFAを使うか」「どのAIを導入するか」ではありません。
まず、営業活動全体が現在どのように動いているかを可視化し、デジタルを前提にしたときに本来どうあるべきかを考えます。
設計は全体最適で行い、実行は自社の予算、人員、影響度、依存関係を踏まえて優先順位をつける。そして、改善に必要なデータが残る仕組みと、人・ツール・AIの役割を整え、結果を見ながら改善を続ける。
この流れがあって初めて、デジタル技術を営業の仕組みの変化につなげられます。
営業プロセスを見直すなかで、「どの企業に営業するか」だけでなく、その企業の中にいる人をどう理解するかを深めたい場合は、【関連記事】「企業だけでなく、人を深く理解する営業へ。コンテキストセールスという考え方」 (https://xaiondata.co.jp/blog/sales/contextsales/)もご覧ください。
また、営業プロセス全体を整理したうえで、データやAIを営業活動へどう取り入れるか具体化したい場合は、XAION Salesの製品ページ (https://xaiondata.co.jp/sales/)をご覧ください。XAION Salesは、リード獲得、エンプラ開拓、CRMデータ整備、商談分析の4つの局面で営業活動を支援しています。
